シャッフル

 俺のドに合わせるように彼女は力強く曲を奏で始めた。それはベートーベンの第九。喜びの歌だった。

 なんだこれ……。すごい……。

 一定のリズムでドを弾いてるだけなのに、彼女の壮大なピアノ演奏と共に自分も弾いてると思うと、まるでピアニストにでもなったかのような気分になった。

 楽しい……。

 年甲斐もなく心が踊っている。楽しくて嬉しくて、幸せな気分になった。

 演奏が終わると彼女が「どうだった?」と笑顔で俺に聞いてきた。

「ああ、楽しかったよ」

 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

「私も」

 その言葉にトクンーー、と胸が跳ねた。

 ……ああ、 こんな日が毎日続けばいいのに……。

 そう思った瞬間、自分に嫌悪感を抱く。

 彼女はあと4ヶ月で復帰を目指さなければいけないのに、こんな日が毎日続けばいいなんて……。彼女を応援しなければいけないのに……。

「疲れただろ?コーヒー入れるよ」

 よこしまな気持ちを払うように、その場から離れた。