抵抗されるかと思ったが、彼女はただただ……俺の胸で泣いていた。

 暫くして、そっと肩に手を置いて彼女を見つめた。

 そして。

「専属ピアニストやらないか?……俺の」

「え……?」

 俺の言葉に彼女は目を見張る。

「俺の休みの日にピアノを弾いて聴かせてほしい。勿論お金は払う」

「だから……もう弾けないって――」

「弾けないじゃない。弾くんだ。君はプロだろ」

 刺すような視線で見つめると、彼女が息を呑むのがわかった。

「ただ練習をするより、誰かに聴かせようとして弾く方がいいだろう。昔の様に完璧じゃなくていい……。でも手抜きは許さない。今弾ける精一杯の力でいい。俺に聴かせてほしい」

「でも……」

「君はピアニストだ。プロならファンの期待に応えて見せろ」

「……」

「俺だけじゃない。たくさんのファンが君を待ってる……。頑張ろう……」