絵を描いていると、脳裏に悪夢が浮かぶ。彼と奥さんが仲睦まじくキャンパスに向かっている。そして、彼は後ろから奥さんを抱きしめ手を添えて一緒に何かを描いていく。笑いながら、きっと下手だなとかなんとか言いながら愛しそうにして。
いつもこの悪夢が浮かんで描けなくなる。
今回もだ。
青から紫、そして黒に染まっていく夜空を見ながら、筆を置いた。
恐ろしいことに悪夢はどんどんはっきりと見えてくるのだ。この話を聞いてから、絵を描く度に浮かんでいた。最初は水彩画のように淡いものだったのに、今では写真のようにはっきりと浮かぶ。は暑いとのこと。そして添付画像。恐る恐る受信する。
三つの笑顔が画面に現れた。海パンを履いて水色の海を背景に微笑んでいる。二人の小さな女の子と手を繋いで。
紛れもなく家族だった。
写ってはいないけど、おそらくあの奥さんが撮ったのだろう。みんな笑顔で楽しそうに……。
家族。
家族なんだ。
胸が押しつぶされた。あまりにも自然で、私の入る余地は隙間もない。ただただ、そこにはありきたりな家族がいた。ありきたりな幸せがあった。
そのありきたりが死ぬほど羨ましい。
押しつぶされた胸を抱いて唸る。涙があふれて止まらない。
なんて残酷な人。
気にしないと言った。しょうがないと言った。二番目で良いとすら言った。確かに言ったが、慣れる訳ではない。この痛みに慣れるなんて有り得ないのに。
届かない想いを吐き出すように、うずくまってひたすら泣いた。