そこからは、お絵描きの時間が始まる。カラフルに汚れたTシャツとスキニーに着替えて、絵の具の準備を始めた。
今日描くものはすでに決まっている。
小さな青い月の絵。タイトルは月の裏側。
彼に与えられた絵の具と筆はとても扱いやすい。今日もいつも通り、私の描きたいものを忠実に表現してくれた。青い哀しげな夜空を描きながら過去を思い出す。
何の技術も知識もかった私に彼はすべてを教えてくれた。きっかけは、ただの暇つぶしに過ぎなかったのだと思う。しかし、理に聡い彼は私を商売道具とみなしたようだ。良くも悪くも私には世界があったから。いくらでも描けたんだ。私の作品たちは、彼の築いたコネクションをたどって売られていった。なんとなく寂しかったけど、彼はとても嬉しそうだった。だから、彼のために描くって決めたんだ。私も描くのは好きだから、この生き方を選んだ。それはいいんだ。後悔していない。
ただ、彼は絵の描き方を教えてくれたとき、私に悪夢を植え付けていった。彼の奥さんにも同じように、教えたことがあったんだって。同じように。だけど才能が無かったんだって笑いながら言った。彼と奥さんの微笑ましい思い出話。
私はいったい何の立場で、同じ場面を演じたのだろうか。特別なんかじゃない、オリジナルじゃない場面を。

紫紺の夜空を作っていく手が、黒を筆にとった。少しずつ黒を混ぜてグラデーションにしながら、下の方は漆黒にしてしまおう。私の心のように。