『ノア。俺のすべて。必ず君を救うから』
そうだ。リノヴァは言ってくれた。絶対探し出してくれるって言った。
前を向いて女を睨む。

「私は消えない。例えあなたが本物だとしても」

私がそう言い切ると、女はため息をついた。

「仕方ないわね。共存はできないし、消えてはくれない。あなたの記憶が失われなければ、私が幸せになった時に消えていたはずなのに」

そこで不自然な間が空いた。とてつもない嫌な予感が背筋を這う。

「大切なものを全部壊したらあなたも消えるかしら」

景色が変わる。森と白い塔が目の前に現れた。

「まず一つ」

白い塔が消える。もともと存在していなかったみたいに、跡形もなく。

「え?」

間抜けな反応だ。そんなのは分かっている。ただ、理解が追いつかない。塔が、消えた。さっきまであそこに居たのに。
そこまで考えて気づく。
私は一人じゃなかった。

「リノヴァアァアアアア!」

絶叫する。有らん限りの力で叫んだ。
嘘だ。そんなはずない。だって探し出してくれるって。

「二つ」

森もなくなった。住んでいた動植物もすべて消えた。

「あ、あぁ」

リノヴァ、みんな、どこ?

「三つ」

海とそこに沈む太陽が消えた。リノヴァと見た景色が、行った場所が消えてゆく。

「やめて!」

私の言葉は無視され、更にカウントが進む。

「四つ」

おじいちゃんの船が消えた。

「五つ」

月が消えた。
星鳥も人魚も消えた。

「六つ」

海が消えた。

「七つ」

月の裏側に浮かんでいたラピスラズリもすべて消えた。

「八つ」

宇宙が消えた。
全部なくなった。
リノヴァもこの世界も。
消えた。

「リノヴァ……」

理解できない。嘘だ。
消えるはずない。

「リノヴァ? あぁ、あの化け物のことね」

軽い口調で女は喋る。

「ここにいるわよ」

そう言った瞬間、リノヴァが女の横に現れた。
あぁ、やっぱり生きてたんだ!
リノヴァが居なくなるわけないんだから。

「リノヴァ!」

リノヴァに駆け寄り、思いきり抱きついた。
感触も匂いも間違いなくリノヴァだ。
それなのに、抱きしめ返してくれない。

「リノヴァ?」

見上げた彼は無表情だった。
反射的に離れる。
そのままよたよたと後退する。

「どうしたの? なんか怖いよ」

何も答えてくれない。

「返事してよ、私何かした?」

「もう一つ最後に教えてあげる」