「塔へ行こうか」

「うん」

お姫様抱っこをしてもらい、飛び立つ。
私はこれから何を知るのだろう。
塔が近づいてくる。一筋の光に照らされる白い塔。浮かび上がる様はとても美しい。だけど、その神秘的な光景が今は恐ろしい。
腕に力を込め、強くしがみつく。応じるようにリノヴァも抱きしめる力を強くした。この温もりだけが正気を保たせてくれる。
最上階の広間に降り立つ。前回と変わらず白い繭が鎮座していた。繭の上に下ろされ、隣に並んで座る。沈黙の中、二人で手を繋ぎ夜空を見る。穏やかとも、嵐の前の静けさとも言える空間をしばらく過ごした。

「君に歌った歌を覚えているね?」

沈黙を破ったその言葉に頷く。

「あれは欠片なんだ。歌の中に封じ込めた記憶の」

「どうしてそうしたの? 私を守るってどういうこと?」

「もしあの時存在の理由を理解したら、君は消えてしまっていただろう」

静かな会話だった。お互い前を向いて、呟くように言葉を紡いでいた。

「存在の理由……。知らなかった。存在するのに、理由がいるのね」

「君は少し特殊だからね。でも、今ならきっと大丈夫。君は君のままで居られるはずだ」

リノヴァがそう言うならきっと大丈夫なのだろう。だけど、怖いものは怖い。恐怖も不安も確かにここにある。

「もし私が私でいられなかったら、どうするの?」

「君を探しに行くよ。どこまで深く落ちても、絶対に探し出す」

ふっと張り詰めた心が緩む。独りじゃない。リノヴァがいるんだ。

「ありがとう。リノヴァ」

隣にいるリノヴァにもたれかかる。黒い羽に顔をうずめ、感触を味わう。もしかしたら、最後になるかもしれないんだ。消えてしまう可能性は0ではないみたいだから。それでも、もう知らないままは駄目なんだと分かっている。今まで不自然なことがたくさんあったはずなのに、何も見えていなかった。ここが無知でいられる限界なんだ。

「リノヴァ、封印を解いて」

黒い手が、鋭い爪が顔を撫でる。

「ノア。俺のすべて。必ず君を救うから」

そっと目を塞がれる。

 さぁ、行っておいで――。