急速に落ちていく。くるくると回転しながら。手を動かして、何かを掴もうとするけど掴むことはできない。時々小さな星が体に当たって砕け散る。
宇宙なのに落下してる。
どこかぼんやりとした意識で思う。宇宙を突き抜けると、見慣れた塔を視界が捉えた。

「危ないよ」

優しい感触と太陽の匂い。落下は止まり、暖かい闇に包まれうつらうつらとする。

「存在を半分置いてきたんだね」

低くて甘い、彼の声が響く。水中を漂う意識が忘れかけていた記憶を映し出した。
 ――歌って。子守歌を歌って。
どうしても聞きたくて必死に口を動かす。

「子守歌、聞きたい」

「懐かしいことを言うね。じゃあ塔に行こうか」

頷くと、風の流れを感じた。目がなかなか開かないけどすぐに着くのは分かってる。いつも近くにあるもの。
『だってそこは、私の生まれた場所だから。』
 ……私の、うまれたばしょ?
何かおかしなことを思った気がする。なんでそんなことを思ったのだろう。

「着いたよ」

彼の声で意識が浮上した。輪郭を無くした私が「私」になって、確かな鼓動を刻む。

「ありがとう」

目を開けると、塔の最上階にちょうど入るところだった。
そこは、部屋と言うよりは開け放たれた空間。壁は無く石柱が等間隔に立ち並ぶのみ。石の硬質な部屋の真ん中に白く大きな繭がある。
アンバランスなこの空間が好きなのだ。
堅牢な石で出来ているくせに開放的。開放的なくせに守るべき繭がある。もちろんこの繭は空っぽだけど。

「昔はよくここで歌ったね」

繭の上に私をおろしながら彼は呟いた。
そう。昔はよく歌をせがんだ。何かに祈るように、不安を消すように、あの歌を。

「そうだね……。あの頃のように安らぎをちょうだい」