唐突に閃く。これは彼からの挑戦状だと。分からないのなら分からせてやればいい。私の絵(ことば)で。この悲しみを怒りを表現してみせろと言われている気がした。

「受けてやるよ」

自分でも驚くほどの低い声で呟く。
やってやる。
そう思うと心が軽くなった。ご飯を食べたら新しい絵を描こう。決まったら行動あるのみだ。
ベッドから出て、すっかり暗くなってしまった部屋に立つ。カーテンを閉め、電気をつけるとキッチンに向かった。適当な野菜を炒めながら、どう表現しようかと悩む。悩みながら手を動かし、ご飯を作っていった。
コンソメバター味の野菜炒めとご飯を持って部屋に戻る。味なんかどうでも良いくらい無意識にご飯を食べた。うまいともまずいとも思わなかった。洗い物をしながら、シンプルに地獄を描いてやろうと思い立つ。
赤黒く渦を巻く炎、底無しの闇。大勢の人影が飲み込まれていく奈落の底。
イメージを膨らませ、服を着る。夜空の絵をどかし、まっさらなキャンバスを設置した。
衝動のままに赤と黒で塗りつぶしていく。渦を巻きながら下へ下へと引きずり込んでゆくように。一緒に堕ちながら悲しみと怒りを叩きつける。涙が頬を伝うが、構わずに激情を掘り起こした。世界中の人が不幸になってしまえとたくさんの人影を炎で飲み込む。
何時間も何時間も描いた。すべての呪いを吐き出して出来たそれはまさに地獄。猛々しい狂気の業火。
ぽっかりと何かが無くなったような気持ちでそれを眺める。腕を持ち上げる力すらなく、筆が滑り落ちた。
やっと終わった。
達成感の代わりに憔悴が体中を満たしている。
早く眠りたい。今日は夢も見ずにただ眠りたい。
それだけが頭をしめ、ベッドに倒れ込む。手を洗わなきゃと思いつつ、意識が遠ざかるのを止められなかった。