*真衣side*
「――楠木」
今でもふいに、桜庭くんがあたしを呼ぶ声が反芻する。
そのたびに笑ってしまうんだ。
この先桜庭くん以外の人と恋ができないんじゃないか。
そんな人生、なんて悲しいんだ―って。
でもあたしは、違う人と手を繋いだりキスしてるところを考えると
その想像の方がよっぽど悲しく思える。
あたしにはきっと桜庭くんだけ。
「うー…」
体育座りの膝の上に顔を埋める。
だめだ、また泣いてしまいそう。
「真衣!」
こんな時はいつも、彼の声が頭に響く。
「やだ…」
「おーい、聞こえてる?」
ハッとして、身を強張らせる。
え…、え?