「ほな明日の朝、7時に一回ここに来るから」
「うん、分かった」
そう言って、田中と繋いでいる手の力を緩めて離そうとした。
すると、田中が手を握り直して強く握りしめてきた。
俺は、田中の顔を見た。
田中は、うつ向いている。
次の瞬間、田中は繋いでいる手を自分の方に引き寄せて逆の腕で俺の腰に抱き付いて、額を俺の胸に当てる。
「今日は、ありがとう……」
そう言うと、一気にホテルの方に走って帰って行った。
俺は、しばらく呆気にとられて呆然としていた。
心ここにあらず、という感じで民宿に戻った。
健太「おっ!!待ってやした!兄貴ぃ!」
花「どうやった?」
俺「何が?」
健太「しらばっくれてくれちゃって兄貴ぃ~!チューくらいしてきたか?」
俺「今日久しぶりに会ったばっかりで、そんな事になるわけないやろアホ」
花「言いたい事は全部言えたんか?」
俺「それは言えた……でも返事とか期待してないって言うたけどな」
健太「はぁ?何でやねん?」
花「…………」
俺「俺は、自分の気持ちを伝えられただけで、田中がおらんようになった2年半溜まってた物を出せただけで十分や」
健太「うんこか!?」
俺「どんなけ便秘やねん!アホか」
健太「ちゃうわぃ!お前の頭が、うんこか?って言うとんねん、気持ち言うたんやったら抱き締めてチューやろ!」
花「健太ちょう待て待て、隆がそれで満足してんねやったらそれでええやないか」
健太「アホ!一気にキメて幸せになったらええんや!病気するまで悩んで苦しんだんやぞ、とっとと上手い事いかんかい!」
俺「気持ちは分かるけど、俺は田中との関係を大事に大事にしていきたいねん」
花「隆らしいな、隆はその方がええと思うで」
健太「何でやねん!はよ付き合った方がええに決まってるやろ」
花「健太やったらそれでええけど、隆と田中は時間かけて信頼関係を作って行ったほうが深い仲になると思うけどな」
俺「俺も、ゆっくり時間かけた方がええ気がするし、今の関係を大事にしたいんや」
健太「最終的には隆が決める事やけど、もたもたしとったらまた誰か知らん奴に取られるぞ」
俺「またって何や?またって」
健太「またまた~!とぼけちゃってぇ」
花「まぁ、とにかく隆と田中の事は隆に任せようや健太」
健太「アホ!こんなアムロみたいな奴に任せてたら、俺と友子ちゃんに明日は無い!」
俺「元々あるか!あははっ」
健太「何とかして下さいませ貴隆様…」
俺「明日、自分で頑張れ」
花「ほんで隆、明日どうするんや?」
俺「明日は、田中に色浜行かへんか?って誘っといたで、いつかちゃんと友子ちゃんが良いかどうか明日7時に田中に聞きに行ってからになるけど」
花「色浜って、この本に載ってるところやんな?」
健太「どんなとこや?」
健太は、福井県の観光の本を開いた。
健太「おお!凄いなここ!やるやないか隆」
俺「まぁな」
花「それはええけど、色浜までどうやって行くんや?」
俺「バイクに乗せて行ったらええやん」
健太「友子ちゃんとタンデム決定!神様ありがとう!」
花「それはええけど、田中らのヘル メットどうするんや?」
俺「あっ!考えてなかった!」
健太「朝、ヘルメット買いに行くぞ!何としてもヘルメットを買う!」
花「まぁ、それしか無いな」
俺「来る途中の商店街にバイク屋あったやろ?」
健太「あったあった!」
花「問題は明日やってるかって事と何時からやってるかやな」
健太「よっしゃ!俺が今から見て来たる!」
健太は、ヘルメットを片手に民宿を飛び出して行った。
俺「凄い執念やな……びびるわ、あははっ」
花「でも、ほんまに良かったな隆」
俺「そやな、ここに来て良かったわ」
花「そうやな、ほんまに奇跡やな」
俺「これから、楽しくなりそうや」
花「ほんまやな」
健太「9時!9時から開いてるぞ!」
健太は、そう言いながら走って部屋に入って来た。
俺「むっちゃ早いなお前!」
健太「ぶっ飛ばして行って来たからな!」
花「ほんなら隆、明日7時に田中に聞きに行った時に、色浜行くんやったらちょっと待っててもらって、10時くらいに出発しようか」
俺「そうやな、それしか無いな」
健太「おおおおおお!興奮してきたぞ!」
俺「おい!もう寝るぞ健太」
花「そうや、明日も泳がなあかんし寝るぞ健太」
健太「こんなに興奮してて寝れるか!?」
俺「知るか!」
花「ハハハハハッ」
この日は、明日の色浜に期待して寝る事にした。
ーー翌日ーー
俺は、7時に田中に聞きに行くので少し早く起きた。
俺が起きると花も起きて「おぉ、色浜行けたらええな」と言った。
俺「おぅ、ほな聞きに行って来るわな」
花「おぅ」
俺は、民宿の外に出た。
夏場の日射しが照りつけているが海辺の朝は、ひたすら気持ち良かった。
「やっぱり夏は海やな!」
と、独り言を言いながら田中たちが泊まっているホテルに向かった。
歩いて数分の場所に田中たちは泊まっている。
ホテルの方に歩いて行くと、田中が立っていたので走って田中の元へ急いだ。
すぐに俺に気付いた田中は「川上君!おはよう」と言った。
「おはよう田中」
「で、色浜どうする?」
「うん、二人とも行くって言ってた」
「そうか、良かった!」
「友子は特にノリノリで喜んでた、ウフフ」
「いつかちゃんは?」
「いつかも、珍しいから行ってみたいって言ってた」
「良かった良かった!ほんで行き方なんやけど、ちょっと遠いから俺らのバイクに乗って行くでええかな?」
「うん大丈夫」
「んで、ヘルメットが俺ら自分の分しかなくて、今から買いに行くんやけどバイク屋が9時からやねん、だから10時くらいにここに迎えに来るわ」
「うん分かった、色々ありがとう。私らのヘルメットまで……お金ちゃんと」
「ええって!ええって!」
俺は、田中が言い終わる前に断った。
だが、田中がお金に律儀なのを思い出した。
「ええ事ない!」
「舞もバイクに乗せるときに要るから、どっちにしても買わなあかんしな」
「うー……」
「だから金の話しは無しな」
「うん…」
「ほな、10時にここに迎えに来るから」
「うん10時ね、待ってるから」
「うん、ほんなら」
俺は、田中に背を向けて歩き出した。
「川上君!」
俺は、立ち止まり振り返って「どうしたん?」と言った。
田中は、俺の元に走って来て「ちょっとだけ時間あるかな?」
「あぁうん、ちょっとやったら大丈夫やで」
「海、見に行かへん?」
「ええな!それ!行こうや」
「良かった」
俺たちは、海に向かって歩き出した。
とはいっても、すぐそこが海だからすぐに着いた。
防潮堤の隙間の階段を下りて砂浜に下りて行く、この時間でもちらほらと海水浴している人たちがいた。
「今日は躓くなよ」
「ウフフ、これだけ明るかったら大丈夫」
「あははっ、そらそうか」
「川上君」
「ん?」
「昨日はありがとう」
「何かお礼言われる事したっけ?」
「私が防潮堤から降りれなくなったのも、躓いて手を繋いでくれた事もありがとう」
「あははっ、あれくらい何でもないやん」
「でも私一人やったら防潮堤から降りれなかったし、躓いて転けてたし……」
「言うたやん俺」
「え?」
「いつでも守るって」
「うん……ありがとう…」
「そんな気にすんなって、楽に行こうや田中」
「うん…私も……」
「ん?」
「私も、川上君に何かあったら守るから……」
「その時は頼もうかな」
「うん、遠慮なく頼んで」
「あははっ、ほんま田中は律儀やな」
「そんな事ないけど……」
「それより田中?」
「何?」
「京都って寺が多いんやんな?」
「うん凄い多いけど、どうしたん?」
「おすすめとか無いかな?て思ってな」
「そういうのは、いつかが詳しいけど私はあんまり知らんねん」
「そうなんや!」
「ほんなら後で、いつかちゃんに聞いて見よう」
「寺とかに興味あるん?」
「いやいや興味あるいうか観光地やしな、京都行く機会があるんやったら見てみたいな」
「そうやね、逆に京都に住んでたらいつでも行けるし寺とか行かへんもんやし私も行きたい」
「そんなもんか、ほな清水寺とかも行った事ないん?」
「行った事ないんよ」
「ほんなら、とりあえず清水寺と金閣寺やな」
「有名なんは行っときたいやんね」
「そうやな、後はもう分からへんわ、あははっ」
この海での再会の後は京都での寺巡り、夏休みもまだまだあるし俺はまた楽しい夏休みを送る事に歓喜した。
「そろそろヘルメットも買いに行かなあかんし行こか」
「うん分かった」
田中を、ホテルの前まで送って民宿に戻った。
民宿に戻ったら、民宿の女将さんが話しかけて来た。
女将「あぁ川上君、今晩で最後の夜でしょ?」
俺「そうですね、もう明日には帰るんですけどまだまだ居たいですね」
女将「えらい気に入ってくれたんやね、また遊びに来てね」
俺「また遊びに来たいです」
女将「それはそうと、今日の夜にこの海沿いの先で祭りがあるし良かったら行っておいで」
俺「そうなんですか?分かりました!連れにも聞いてみてみます」
女将「今日も楽しんでね」
俺「ありがとうございます」
祭りがある情報を聞けたので、早速部屋に戻って健太と花に伝えた。
健太「祭りって聞いたら行かなあかんやろ! 」
花「ほな色浜から帰ったら行ってみよか」
俺「決まりやな」
健太「ええ情報持って帰って来たな隆」
花「それより、そろそろヘルメット買いに行こうか」
俺「そやな!」
健太「はよ行って色浜行こうや!」
俺達は、バイク屋がある商店街にバイクを飛ばして行った?
商店街のバイク屋に着くとヘルメットが5つほどあり、俺は無難に黒のヘルメットを買った。
花は、濃い青のヘルメットを買った。
健太は、ピンクのヘルメットが欲しかったらしいが無かったのでしぶしぶ残っていた赤のヘルメットを買っていた。
とにかく、ヘルメットを無事手に入れて民宿に一旦戻ってすぐに泳げるように海水パンツとTシャツに着替えて、支度をして時間がきたので民宿を出た。
俺達は、荷物をバイクにぶら下げまつ田中達のホテルに向かった。
ホテルの前には既に田中達が待っていた。
俺「おぅ!お待たせ」
花「三人さん、おはよう」
健太「キャッホー!色浜行くぜぇー!」
田中「みんなおはよう」
いつか「おはよう」
友子「キャッホー!行こうぜぇー!ニャハハハハ!」
なんだかんだ言って、健太と友子ちゃんはお似合いかもしれないと思った。
田中「荷物をリュックに入れて来たんやけど、一緒に入れる?」
俺「ええか?ほな頼むわ」
田中「うんええよ」
そう言って俺の荷物を、田中は自分のリュックの中に入れてくれた。
いつか「花井君も入れる?」
花「あぁ!助かるわ、ありがとう」
いつか「うん」
健太「ほな、俺のも友子ちゃん入れてぇー」
友子「嫌だよーん!キャハハ」
健太「ガボーン!」
友子「ウソウソ、キャハハ」
そして俺達は、色浜に出発した。
