夕食が出来て、二人で食べていたら舞が「ああいう事……」
俺は咄嗟に分からず「ん?」と言ったが、抱き締めた事だと理解した。
「後ろから抱きつくの……」
舞は少し下を向きながら言った。
「あぁ、嫌やったか?ごめんな」
「んーん……嫌やないけど……」
「嫌やないんか?」
「嫌ちゃうけど……兄妹やで」
目を合わせずに、そう言うと黙って夕食を食べ出した。
「それより何があったか聞かへんのか?」
「うん、聞かへん」
「どうしたんや?舞」
「別に…どうもせえへんけど……さっちゃんが来うへんのは、しょうがないんやろ?」
「まぁ今日俺が、来るなって言うたようなもんやけどな」
「そうなん?」
「うん…」
「でも、お兄ちゃんが悪いわけやないんやろ?」
「たぶん…」
「もうええやん」
「舞がええんやったら、ええんやけどな」
「私は、お兄ちゃんとお母さんがいればええもん」
「そうか、ちゅうか舞が「私」って言うてる!」
「子供っぽいから「舞」って言うの止めたんやけど変?」
「めっちゃ変!あははっ」
「もう!笑わんといてよ!」
「ごめんごめん、舞ちゃんも大人になりましたねぇ」
「うるさい」
先ほどの雰囲気が和んで、夕食が終わった。
舞は、舞なりに俺に気を使ってくれたんだと思った。
俺も、舞を見習って佐知子の事は気にしない事にした。
翌日、学校へ行くと花が教室にやって来た。
「隆、昨日何があってん」
「話したら長なるから、また今度言うわ」
「分かった、昼休みにまた来るわ」
そう言うと花は自分の教室に帰って行った。
昼休みになって花はすぐに来た。
「花、早いな昼メシは?」
「最速で食って来た、ハハハッ」
「早すぎるやろ!」
「あぁ、隆はメシ食ってたらええやん」
「分かった、とりあえず食うわ」
「食いながら聞いてくれ」
「ん?」
「あの後、明神ずっと泣いてたわ、授業中もずっとな」
「そうか…」
「ほんで、まぁ大体の事は授業終わってから明神に聞いたんや」
「うん」
「簡単に言うと、隆にフラれて落ち込んでる時に今の彼氏に告白されたんやて、ほんで悩んだけど隆の事がちょっとは忘れられるかなって思って付き合う事にしたんやて」
「………」
「その付き合ってすぐに、隆が教室に来て明神に話しかけて、ああいう態度になってしもたらしいわ」
俺は、箸が進まなかったが弁当を食べ終わりかたずけた。
「なるほどな…」
「ほんで、昨日事があって隆に「お前が選んだ事やねんから責任持て」って言われたて」
「あぁ、言うたな」
「明神にしたら、完全に絶交状態やて泣いてたみたいやわ」
「まぁそんな感じやな」
「俺が明神に聞いたのは、ここまでや」
「あと付け足すとしたら、お前らの教室に行く前に三好て言う3年の佐知子の彼氏がここに来て、佐知子に近づくなって俺に言いに来たくらいやな」
「その三好て言う奴、テニス部のキャプテンで明神がテニス部に入ってからよう教えてくれてたみたいやな」
「テニス部キャプテンかぁ、まぁどうでもええけど佐知子とはどうしようもないわ」
「明神の彼氏が近づくなって言うとるんやったら、どうしようもないわ な」
「ちゅうか、そんな事わざわざ俺に言いに来るか?」
「まぁ隆にしたら、腹立つやろうけど三好て奴にしたら必死なんやろ」
「何でそない必死やねん?」
「そら明神はモテるからな、ほんで三好て奴が知ってるかは分からんけど、明神は隆の事好きやからな」
「なるほどな」
「舞ちゃんには言うたんか?」
「言おうとはしたけど、舞は聞きたくないって」
「マジで?舞ちゃんどうしたんや?」
「怒ってるとかやないんやけどな、どうしようもないやんって感じみたいやな」
「大人やな、舞ちゃん」
「そうやで、自分の事も「私」とか言うてんねん」
「ハハハッ、もう中学生やもんな」
「舞もそのうち彼氏が出来て、佐知子みたいになるかもな」
「ならんやろ?舞ちゃんは」
「やったらええけどな」
「幼なじみと兄妹とはちゃうやろ」
「佐知子も兄妹みたいなもんやったんやけどな」
「とりあえず、落ち込むなよ」
「大丈夫や、落ち込んでもしゃーない事やん」
「ほな、昼休みも終わるから行くわ」
「あぁ、ありがとうな花」
「おぅ!ほなな」
「あぁ」
花が自分の教室に帰って行った。
俺の中では、佐知子に彼氏が出来た事は良い事、佐知子と会えなくなる事はしょうがない事、と思うようにした。
実際は、普通に考えればそうなのだ。
その日から、気を取り直してバイトに精を出した。
6月末、やっと俺、健太、花の三人はバイクを買うお金も出来て、バイクを買った。
三人で手を叩きあって喜んだ。
後は納車を待つばかりだった。
7月に入り、三人でバイクの納車日以降で三人でバイトを休める日を取って、念願の海に行く事にした。
バイクを買って余った分と給料日が20日でお金に余裕もあったので、泊まりで行く事にした。
日にちは、25日に出発してその日と26日に民宿に泊まって27日に帰るプランにした。
母親にも、了承を得てあとはどこの場所に行くかだけだった。
三人でバイトを休める日をもらって、俺の家で本屋で買ってきた地図を広げて話し合った。
地図を見て、候補地を出しあっているだけで楽しかった。
結局場所は、ここから約200㎞の小浜市にした。
俺たちが住んでいる場所からは、太平洋が近いのでどうせなら日本海に行ってみようという事になった。
片道約200㎞、それがどれくらいの距離なのかも未知数でワクワクが止まらなかった。
日にちも場所も決まり民宿の手配は花がしてくれた、後はバイクが来て小浜市に行くだけだ。
数日後に花のバイクが納車されて、翌週には俺のバイクも納車された。
後は、健太のバイクが納車されればちょっとしたツーリングにも行けるんだが、健太が買ったNSR250は人気車種で納車が遅れた。
夏休みに入る頃に健太のNSR250が届き、バイトが夕方の日にツーリングに行った。
この頃には、俺と花はだいぶ自分たちのバイクに慣れてきていた。
後は、健太にもバイクに乗るのを慣れてもらわないといけない。
せっかく楽しみにしている海へのツーリングで、事故でもしたら最悪だからだ。
しかも、NSR250Rはこの時では250ccでは国内最速のバイクだ。
俺のVFR400Rもかなり速い400ccのバイクだがNSR250Rには加速力では勝てない。
そんなハイスペックなバイクを買ったのは、さすが健太と言うところである。
バイトに行く時にも三人ともバイクに乗って言った。
ヘルメットは、顔が全部隠れるフルフェースのヘルメットにした。
一応、安全面を考えてだが学校の教師に見つかるのも避けるという意味もあった。
勿論、学校の校則ではバイクは禁止だ。
だからバイクでバイトに行く時にも、バックスペースにヘルメットを被ったまま入って行く。
初めてバイクでバイトに行った時は、店長が強盗と間違えてびっくりしていた。
海へのツーリングの前日、舞に「一人で大丈夫か?」と聞いた。
「私は大丈夫やけど、お兄ちゃんこそ事故とかせんといてや」
「安全運転で行くから大丈夫」
「お母さんが、明後日は休み取ってくれたし明日は早く帰って来るらしいから、心配せんでええで」
「そうなんか?初耳やな」
「今日昼間に電話かかってきて聞いた」
「そうか、良かったな舞」
「うん、明後日どっか連れてってくれるて言ってた」
「うわ!せこいなお前!」
「えへへ~ええやろ~?」
「羨ましいけど、いつも家の事ようしてるしご褒美やな」
「お兄ちゃんもご褒美ちょうだいや」
「あぁ、分かってまんがな!任せとけ!金貯めとくからな」
「うん」
その日は、ワクワクし過ぎてなかなか寝れなかった。
翌日の朝、前日に用意していた荷物をバイクの後ろに積んで健太と花を待った。
時間通り、7時に二人はやって来た。
早速、出発して走り出した。
先頭は地図で道を覚えた俺が行く事にした、真ん中に健太で一番後ろに花の順番で縦に並んで走る。
出発してやはりバイクは良いと思った。
風との一体感、それに爽快感が最高だった。
大阪市内を抜けて京都市内に入った、大阪と違い古い町並みに感動した。
自分の力でここまで来たと思うと、我ながら凄いと思ったが先はまだまだ長い。
国道1号線から国道162号線に入り、しばらくすると山の中を走った。
自然の中を走る。
やっぱり自然の空気は違うと俺は思った。
半分以上来たので休憩する事にして、事前に決めておいた左手を左側に出し親指を立てる合図を後ろの健太に送る。
健太も同じように左手で親指を立てて花に止まる合図を出した。
居眠りパーキングと書かれた、少し広くなっているところに止まる。
国道の横に小川が平行して流れていた。
さすが上流だけあり水が澄んでる。
走っているとそうでもないが、とにかく暑いので着ていたTシャツを川の水に浸けてTシャツを絞った。
そのTシャツを着たら、凄く涼しくて快適になった。
健太「何してんねん?」
俺「ちょっとは涼しくなるぞ」
花「それ名案、俺もしよ」
健太「この水やったら大丈夫そうやな」
一通り雑談をし、道もこのまま国道を進むだけなので問題ないので再度出発することにした。
バイクのツーリングしている人たちは、知らない人でもすれ違う時に右手をあげる。
バイカー同士の挨拶みたいだが、こういうのは良い物だと思った。
ほとんど交通量もない田舎の国道は、とにかく気持ち良く走れた。
長い京都府を抜けて福井県に入って国道162号線から国道27号線に入り、すぐに一般道に入ると商店街がありそこを抜けると磯の香りがしてきた。
もうすぐ目的の日本海だ。
民家と民宿とホテルが少し立ち並ぶのを抜けると目の前に海が広がった。
海沿いの道にバイクを3台並べて停めて、俺たち3人は砂浜に走った。
3人で海の水平線を見ていた。
花「やっと着いたな」
健太「長かったなぁ」
俺「でも楽しかったな」
花「そやな、ほんで達成感が凄いあるわ」
俺「確かに達成感は凄いな」
健太「約5時間半やもんな」
俺「そういや、もう昼過ぎやな」
花「メシでも行くか?」
俺「ほんなら、ちょっと戻ってさっき通って来た商店街に行こうか」
健太「そやな、そうしよ!」
俺たちは、先ほど通って来た商店街に戻ってハンバーガーショップに入って昼食を取った。
健太「ギャル3人組とかおらんかな?」
花「どうやろな?あんまり人おらんかったな」
俺「とりあえず食ったら民宿に荷物置いて、海で泳ごうや」
健太「そらそうやろ!行くぞ野郎ども!」
花「うるさい奴やなぁ」
健太「ギャルが俺を待っている!」
俺「気のせいやろ」
花「間違いないな」
俺たちは昼食が終わって、今夜泊まる民宿に行った。
荷物を置いて、海水パンツを履いていると健太が見当たらない。
俺「花、行こうか」
花「おぅ」
民宿を出ると、健太は汗だくになりながらボートに空気を入れていた。
