失恋はキューピッドの誤射?!






タツヤはマナーモードの携帯の振動音に反射的に出てしまった。
相手先も確かめずに・・・

「はい、ヤマナシです」

「ごめんね!ヤス君」

「いきなり謝られても、わけわかんないし!それに、いったいあんた誰よ?」
ヤスは、寝入りばなを起こされた不機嫌さをストレートにぶつけた。

「わたしはキューピッドのエマ。ホントにごめんなさい」

「あのさぁ、キューピッドだかなんだか知らないけど、なんで謝るわけ?」


「実は、矢を間違って当ててしまって、あなたの彼女のミユとあなたの親友のタクマをラブラブにしてしまったの・・・」

「あんたの云ってること、俺、よくわかんないよ!」


「わかりやすく云います。あなたは近々ミユに振られます。しかも、その理由は、あなたの親友のタクマのことが好きになってしまったから・・・」

「だからさぁ~どうして、そう云う展開になるわけ?俺とミユはさ、現在進行形でラブラブで、いい感じなんだけど?」

「そう、その通り!私がミスさえしなければ、あなたとミユはこのままラブラブでいられたと思うわ・・・」
エマは、すまなそうに声をひそめた。

「俺、やっぱ、あんたの云ってることよくわかんない。それに、信じたくもないし、これってたちの悪い夢なんじゃないのぉ?」
ヤスは、ベッドから上体を起こしてみた。


そして、部屋の明かりを点けた。

「信じられなくて当然だけど、現実にそうなると思うから・・・ゴメンなさい!」
耳を寄せた携帯から、相手の声がはっきりと聴きとれた。


「あの、エマさんとかいったけど、あんたさぁ、俺はそれでどうなるわけ?」


「わたしも、この先どうなってしまうのか心配で、キューピッド長に相談しました。その結果は、天使界の掟で話せませんけど、大丈夫だととのことでした。

「なにそれ?天使界の掟?話せません?それで納得しろっていっても無理でしょ?」


「人間に未来を具体的に話すことは、未来を変えてしまう可能性があるので厳しく禁止されています。それが天使界の掟なんです、わかって下さい!」

「だったら、結局、あなたは俺に何の用?」

「わたしの要件は・・・謝罪です。そしてその穴埋めに、あなたの理想の女性のタイプを教えてもらいに来ました」



翌朝、ヤスは目覚めてすぐに、昨夜のわけのわからない電話を思いだしていた。

そして、携帯の着信履歴を確認した。

不在着信が一件、非通知として残っているだけだった・・・


やけにリアルだったけど、夢?だったのか?

どっちにしても、タクマに今夜会う予定だ、その時確かめてみればいい。

下手にミユにそんなこと話したら、あいつ怒りだすかもしれないし。


その晩。
行きつけの居酒屋。

テーブル席で、向かい合って呑んでいるタクマとヤス。

「そういえば、タクマさ、俺になんか隠してることあるか?」
ヤスは、さりげなく、切り出した。

タクマは、一瞬、口をつぐんで、うつむいた。

そして、一息、溜息を吐きだして、話し始めた。

「早く云わなきゃいけないと、わかっていたんだけどな、なかなか、云いだせなくてな・・・やっぱ気づいてたか?」
タクマは、腹を決めたようにヤスの目を見た。

「タクマ、お前、まさか?」

「そう、殴ってくれ!思いっきり殴ってくれよヤス・・・」
タクマは頭をテーブルに押し付けた。詫びた。

詫びながら、聞きたくもない話しをすまなそうに、ポツリポツリと話すタクマ。

その話を聞きながら、昨夜の夢みたいのが正夢っていうんだと、ヤスは思った。

「なぁ、ヤス。だからさ、ミユはぜんぜん悪くないんだ。俺がぜんぶ悪いんだ。ミユを責めないでくれ・・・頼む」

「わかってるさ・・・そんなの、許せっていったって無理。だけど・・・なにかの間違いってことも、起こるものさ・・」
ヤスは、タバコの煙と一緒に大きなため息をひとつ天井に向かって吐きだした。


それから・・・数日後、午後10時を過ぎた頃。



不意にヤスの携帯が震えて着信を知らせた。


「久しぶり、ヤス君、元気?ちょっと相談があるんだ、良かったら聞いてくれない?」

思いもよらぬ相手からの電話だった。

ミユと付き合う前、ヤスが強烈に片思いをしていた、一つ上の先輩からだった。


ヤスはその声を聞いて、落ち込みが少し癒えたような気がした。
「どうしたんですか?急に・・・」


「電話じゃなんだから、明日とか明後日とか、呑み行こうよ?」
妙に明るく、誘われた。


「ハイ、イイッスね~」
ヤスは、あの日の夢の中のキューピッドの言葉を思い出していた。

「わたしの要件は・・・謝罪です。そしてその穴埋めに、あなたの理想の女性のタイプを教えてもらいに来ました」確か、そんなことを言ってたっけ・・・