誠「兄さん、その…」
誠君が、小さな声で言った。
介「誠……わりぃな!
オレ、こーゆー人間なのよ!」
誠「もう、やめてくれよ…」
介「やめろって、止めようがないだろ?
オレの気持ちは、たぶんかわんねーよー」
誠「だから……………!!
そのおちゃらけを、やめろって言ってんだよ…ッ!」
誠君が大声を出すところ、初めて見た…。
誠「変わんなくてもいい。
俺のこと嫌いでもいい。
……だからせめて、兄さんだけは…ッ
兄さんだけは、自分を見失わないで………!」
介「は………?」
誠「俺、は……」
誠君の瞳から、涙がこぼれる。
…やっぱり誠君も、いっぱい抱えてたんだね。
誠「俺は、櫻田家に迎えられるまで、母さんと二人暮らしで…
いつも、虐待されてて、
だから、俺が殴る専門じゃなくて受け身専門なのは、母さんから自分を守るためで。
痛みの感覚が麻痺する寸前で、母さんがアルコール中毒で死んだ。
肝臓がダメだったんだ。
俺は、ホッとしたよ。
もう殴られなくていいんだ、ってな。
それから、櫻田家に迎えられた。
兄ができるって聞いて、正直怖かった。
また殴られるのか。
今度は母じゃなくて、兄に。
でも、違った。
兄さんはすごく優しかった。
俺は、ようやく幸せになれたんだ、と思った。
それでもなにか、櫻田家に恩返しがしたくて勉強を頑張った。
頑張るほど褒められて、嬉しかった。
でもだんだん、兄さんは冷たくなっていった。
そしていつからか、冷たく笑うようになった。
俺は気付いてたよ、兄さん。
当たり前だろ?
だって、一緒にいた時間は短かったけど、俺達は確かに兄弟なんだから。」
介「誠……」
誠「別に、嫌ってくれてかまわない。
でも兄さんには、心から笑ってほしい。
俺みたいに、自分を見失わないでほしい………ッ!」
介「誠が、自分を見失ってる…?」
誠「……やっぱ、兄弟だよな。
俺は勉強して、確かにたくさんの知識を得た。
父さんたちのお気に入りにもなった。
でも、いつもなにか足りないんだ。
ずっと、隙間があいてる。
テストも100点、なんでも分かってしまうっていうのは、結構辛くてさ。
好奇心もなくなって、興味も失せる。
だって、やる前からすべてわかってしまうんだから。
興味や関心がないなんて、自分がないも同じだ。
どういう形であれ、俺と兄さんは同じ穴のムジナ。
だけど、兄さんにはちゃんと笑ってほしい。
俺を踏み台にしても、け落としてもいいから、心から笑ってほしい…ッ」
違う。
「それは違います。」
あたしは、少しうつむきながら言った。


