一夏の恋





消えそうな、声。





"翔ちゃん"








たしかに、そういった。









「ごめっ…翔ちゃん…!」





背中に抱きついたまま泣いている。









もしかして。





いや、もしかしなくても、




姫咲だ。








「姫咲…?」



「翔ちゃん、ごめんね、
きさっ…ごめっ…」








ああ、今わかった。





姫咲が、自分を"きさ"
って呼ぶ時は、



なにかを隠している時。


なにかを訴えようとしている時。



きっと、姫咲ですら気づいていない
癖のようなものだと思う。



きっと、響や父親、母親と
暮らすうちに自分の気持ちを
伝えることが下手になった。


だから、そういうときは
一種の退行現象で、自分のことを
名前で呼んでしまうんだ。