一夏の恋





ーーーーー。



姫咲が話し終えてしばらく沈黙が続く。




うまく話が飲み込めなかった。





あのつまんない国際の授業を
やっている教師が姫咲の
血のつながらない兄で、
昔付き合っていた?


兄に会うためにあの授業に?


そして、その兄は記憶がなく

その悲しみを忘れるために俺を?





「翔ちゃん…。」



姫咲が起き上がって俺を見る。








ーーーなんでお前がそんなに
泣きそうな顔してんだよ。





泣きそうな顔といえば。





俺が強く言ってしまったとき

怒らないで

と泣きそうな顔をしたことがあった。











きっと、強く言う口調は
兄をけなす父の怒声に。


愛されなくなる、ということは
兄からの愛
そして、
愛されなくなった兄を。


そういうことを重ねて
フラッシュバックしたんだろう




と、すべてを知った今なら
考えることができた。