クラに初めて出逢ったのは、1ヶ月前の入学式のとき。
私、顔が地味だから髪色だけは明るくしておきたくて…。
なかなか明るめの茶髪に染めて入学式に参加したの。
そしたら入学して早々、女子の先輩たちに調子乗ってる、って目付けられて…。
入学式の次の日の昼休みに先輩たちに呼び出しされた。
「おい、1年。なんで1年のクセに髪色明るいわけ?喧嘩売ってる?ナメてんの?」
髪色が明るい=先輩をナメてるっていう考えがあたしにはよくわからない。
「……。」
「おい、シカトかよ!」
……思いっきりビンタされた。
……は?なんでビンタされなきゃいけないわけ?
急にあたしはイライラして、やり返そうと思った。
中学の時も、軽い不良だったからケンカぐらいしたことある。
だから先輩だろうとやり返すのは怖くない。
力を込めて…。拳を上に…。
「だめっ!逃げるよ!」
白くて細くて綺麗な腕が、たくさんキタないことしてきたあたしの腕を掴んだ。
気づいたらもう走り出してた、なんだかよくわからなかったけど嬉しかった。
親は5歳のときに離婚して、母親についてきたあたしはいつも1人ぼっちだった。
『おかえり。』
そんな優しい言葉、言われたことない。
『ご飯食べようか。』
そう言って温かいご飯を一緒に食べたこともない。いつもあたしを待っているのは机の上のお札だけ。
愛情を受けたことないあたしの腕を引く彼女の手は冷たかった。
でも、すごくすごく温かかった。
彼女が開いたのは屋上へつながる扉。
朝、小雨だったのにいつの間にか晴天にかわっていた。
まるで、あたしの心の中。
「あたし、神宮寺サクラ!クラ、って呼んでね?」
…綺麗だと思った。顔も可愛い、けれどそれ以上に彼女の心が。
「岩…橋の…ぞみ。…のん、って呼んで!」
「のんっ!よろしくね!」
彼女は笑顔だった。今日から彼女はきっと、あたしの太陽的存在だろう。
「うん…よろしく。」
「…さっき大丈夫だった?」
私を心配してくれる大きな瞳。恋愛感情とかじゃなくて、守りたいって思った。
「あ…うん。ちょっと痛かったけど。」
痛かったよ、本当はね。
無意味に殴られることには、慣れてたけどやっぱり痛い。
でもね、サクラが…クラが助けてくれたから、痛みなんてもう忘れちゃった。
「やっぱり…痛かったよね…。もっとはやく見つけてはやく助けてあげられれば…。」
クラはこんなあたしを助けきらなかったことを悔やんでくれている。
その気持ちだけで嬉しかった。
だから、もう大丈夫!そう言って、笑って安心させようとした…その時。
「でものんもあの時、殴り返そうとしたでしょ?」
少しギクッとした。
「やり返したらあいつらと同じレベルだよ、我慢だ、我慢!大人になろ?」
クラはそう言って微笑みながら空を見上げた。
初めて悪いことはダメ、と怒ってくれる友達ができた。
この人とずっと一緒にいたいと思った。
次はあたしが守ってあげたいと思った。
校庭には、サクラが満開に咲いていた。
