「ただいまー…」
大きく、重厚感のある扉を開ける
「おかえりなさいませ、お嬢様」
使用人の宮野にカバンを渡す
「お母様は?」
「今日は遅くなるそうです」
「そう…」
またか…
最近お母様は帰るのが遅い
お父様は最近顔を見ていない気がする
だから夕食はいつも1人
「つまらない…」
誰に言うでもなく呟く

でも今の学校は少しだけ楽しいかもしれない
人の屈辱的な顔を見るのって、なんて楽しいんでしょう!

橘梨佳…
いつまで持つか見ものね…

〜翌日〜
「おはようございます、お嬢様」
「......お母様は?」
リビングには誰もいない
「奥様は、朝早くに出掛けられました」
「...そう...」
長いテーブルに1人で座る
いい加減こんな生活にもうんざりしてくる
「はあ...」
ため息をつきながら朝食を口にする
今日の朝食は紺野家のシェフが腕によりをかけて作ったフレンチトースト
そしてそれを半分ほど食べて席を立つ
「もうよろしいのですか?」
「ええ」
宮野の声を背中に聞きながら自分の部屋に戻る


『ちょっとぉ〜なにやってんのよ〜』
は?何を言っているの?
『あんたみたいなビンボー人がとろとろ歩いてんじゃないわよ!』
誰に物を言っているの?
私は紺野メーカーの一人娘、紺野美里亜よ?
...いや、違う
よく見たらこの制服...中学のときの?
てことはこれは中学の時の記憶...

そう、あのときは会社の株が大暴落し、今とは比べものにならないほどお金がなかった
そのことで一時期いじめられていた時期がある

お腹を蹴られる
息ができなくなった
『ちょっと吐かないでよ〜?汚〜い』
いや...やめて...
苦しい...息ができない......
誰か...助け...て...
途切れる意識の中で一瞬だけ、いじめている子の後ろで笑う橘梨佳の姿が見えた...


......さま...
ぉじょうさま...
お嬢様!!
「かはっ...っはあ...はあ...」
夢...か...
いつのまに寝ていたのかしら...
「大丈夫ですか?随分うなされていましたが...」
「いいえ、なんでもないわ。水を持ってきてちょうだい」
なんとか平静を取り繕う
「それは構いませんが...お時間は大丈夫ですか?」
時間?
そんなの別に...
!?
いつもならとっくに迎えの車にいる時間だった
「すぐに車を用意してちょうだい!水はもういいわ」
「承知しました」

なんとかいつもと同じ時間帯に着くことができた
「それでは、いってらっしゃいませ」
宮野が車のドアをあける
「ええ」
昇降口に続く道を悠々と歩く
早速私のとりまきたちが近付いてくる
「美里亜さん!おはようございます!」
「おはよう」
橘梨佳がいる
なんだか無性にイラつく
すれ違うときに足を出す
アイツがコケる
「いったぁーい!橘さん足を踏むなんてひどぉい!」
「!?足を出したのはそっちでしょう!」
ふふふ
「いいえ?そんなことしてないわよ?ねえ、あなた?」
隣にいた高梨美優に問いかける
「えっ...は、はい...」
橘梨佳の絶望した顔
とても楽しいわ♪