「おはよーベラ!」

「…おはよう」


同級生の男子、桃司に声をかけられる。
私は朝が苦手だから、だるそうに切り返す。


「ベラさん、元気ナイデスヨ?」

「あ~…大丈夫大丈夫」




…ここは日暮町に建っている、市立日暮大学。
私、ベラトリックス・ガードナーは、ここの生徒である。
いつも、小さいころから仲のいい桃司と、留学生であるルナと一緒に登校している。
ルナの本名は、ルナーゼル・クロロフィル。長ったらしいので、私や桃司は「ルナ」と呼んでいる。


…実は、私の家系は特殊である。
日暮町の離れ…暗黒街と呼ばれる、スラム街みたいな場所に私の家は存在する。
そして、私の家系は…。



「お嬢。今日は何時に?」

「あ…一五三〇(ひとごさんまる)」

「了解しました」


執事のエレンが、迎えの時間を聞いてきたので、私はいつもの通りに彼に迎えの時間を告げる。エレンは素早く返事をして、愛用の車で帰って行った。


「ベラ、相変わらずお嬢様だよな」

今更のようにして、桃司が話しかけてくる。


「家柄のせい」

「知ってるって。しかも自衛隊みたいな言い方だったぞ、さっきの時間予告」

「あぁ…エレン、もとは自衛隊だし…そっちの方がいいかなと」

「ふぅん…」





そうなのだ。エレンは家に来る前は自衛隊で指揮官をしていた。しかし、生まれつき持ち合わせた体質のせいなのかなんなのか、エレンは自衛隊をやめてしまった。
今家で執事をしているのは、ひとえにして私のおかげといってもいい。なにせ、路頭に迷っていた彼を、幼馴染のよしみで家の執事に任命したのが、この私なのだから。

そして、家の場所はスラム街みたいな場所とは言ったが、私の家は物凄い豪邸である。
執事もメイドもいる…。超の付く豪邸だ。
もうひとつ、特殊なことがある家系なのだが…。


「(この子たちには言えないのよね~…)」

「…ベラさん?何か悩み事デスカ?」

「あ…大丈夫よ、ルナ」


そう。ルナにも桃司にも、何も言えていない。私だけの、私の家系の秘密…。


「ルナ、ベラ。そろそろ授業始まるぞ」

「今いくよ、桃司」





…今日も、何気ない一日が始まろうとしていた。