「…よし」


ひとしきり喋って落ち着いたのか、君はふっと息を吐いて。
そして、こっちを見ないまま
小さな声で「ありがと」と言った。
夜の闇に溶けて消えた、小さな感謝の言葉。
その声を取り落とさないように聞きながら、じゃあもうしばらくは必要とされる事は無いんだな…なんて考える。


「もういいの?」
「うん。すっきりした」
「そっか。…じゃあ、帰ろうか」
「うん、」


振り返って、来た道を戻る。
君はやっぱり前に居て、その後をついて歩く。
何度一緒に歩いても、二人が隣に立つ事は無い。それが何故かなんて知らないけど。

相変わらず、ふわふわ揺蕩うワンピースの裾。
振り返らずに歩く君。
目の前で揺れる尾ひれを見ながら、この魚を捕まえる事は決して叶わないんだと思い知る。
その事が、今更に寂しく思えて。


俺にしなよ。

なんて言えたらいいのに。…とか。
そんな事を思ってハッとした。

それじゃあまるで、
君が
君の事が



「ーーー好きみたいじゃないか…」
「ん、何か言った?」
「…別に」
「そう」




…なんて。


言えたところでどっちにしろ、
君には届かないんだけれど。ね。




end