それにーーー







やっぱり、あの神月に取ったアヤの態度は、

神月を受け入れれないレンにとって気に入れるものではなかった。






あんなに相手に心を許したアヤの笑み。

レンにしか、見せる事ない表情ーー




笑みに象られたアヤの長い睫に、部屋に点された蝋燭の灯火が淡く影をのせ、一際美しく見えた。


レンの瞼に焼き付く。


「やっぱり、
気に入らない……」



そう云って、小さな白い頬をめいいっぱい膨らますレンの表情は、まるで大切なものを取り上げられた幼子の様だった。









生暖かい風は相変わらず音もなく吹き、レンの頭上高く聳え立つ木々を、ゆっくりと揺らし続ける。




アヤを一人残し、古屋敷を飛び出したレンは行くあても無く、

その大きな茅葺きを乗せた屋敷に背を向け、傍にあった大岩に腰を降ろしていた。



吹く風とは対照的に、腰掛ける大岩はひんやりと冷たく、置く掌から伝わってくる。

黒光るその岩は空の闇を映し、見える事はない満ち月の存在を求めている様。




ーーー今宵一晩は、
その姿を覗む事はないのか……



レンは何も見えない闇空にそう呟きながら、瞼をゆっくりと閉じた。