妖勾伝

「さあ、
レン様もお座りになって。」


アヤの言葉にどうしようもできず、その場で立ち竦むレンに気を利かせた紫乃。

ソッと背を押して、レンを窘めた。



紫乃に促されるままに。

アヤの隣に、何も云えず座するレン。

それを見届けると珀は頬を緩ませ、さも楽しそうに皆に告げた。








「夜は長い……

皆様、
ごゆるりと寛いでいってください。」







目の前には、色採りどりに並べられた膳の上の小鉢達。


少し遅めの、夕餉を囲むーーー




海の碧。

山の翠。

様々な種類の食材が朱に塗られた小鉢にのっており、皆の食欲をそそらせた。



珀を隣に、旨い酒を煽り神月は上機嫌だった。


その前でレンはむっつりと黙ったまま、黙々と箸を進める。

アヤはそんなレンを横目で見ながら、ふと皆を見渡せる位置に座する老婆に尋ねた。



「失礼ですが、
此方らの主人は、珀だと云っておられましたが……」

其処まで云うと、老婆は心得たかのようにアヤの云いたい事の後をやんわり付け足した。



「ーーー息子が、
いたんだよ。」


珀と紫乃が、ゆっくりと視線を絡める。








「珀の旦那、
ーー紫乃の父親さ…」