妖勾伝

「可笑しな事を…
アヤはーーー」




レンがふさげるなと神月に云い返そうとした瞬間、

ただ二人の会話を黙って聞いていたアヤは、その後に続く言葉を潔く制した。



「面白い人だ、
……神月。

訳あって、今まで男という素性を隠していたが。
見抜いたのは、神月が初めてだよ…」



そう云うアヤ。

女の形をしている姿はどう見ても男には見えず、美しく整えられた顔をゆっくり神月に向けると、ニッコリ笑みを零した。



「ーーアヤ!」




神月に笑顔を向けたアヤに納得がいかないように、レンは勢い良く立ち上がる。


目の前に置かれた膳が、小さな音を立てて揺れた。




「いいんだ、レン。

都までと思っていたが、もうこの歳だ。
男の形を隠し通すにも、限界がある。」



そう云って、アヤは静かに珀に視線を移した。


「構いませんか。」




澄んだ心地の良い声。

後ろに束ねた黒髪は艶やかで、部屋に点された蝋燭の灯りに揺らぎながら、薄茶に眩く反射する。

長めの睫はアヤの綺麗な瞳を縁取り、芯から出る美しさを際立たせた。





「喜んで。」