妖勾伝

「私達は、
珀の住に一晩呼ばれた身だ…」




そう視線を投げる先には、珀の困惑した顔。


そして、

アヤ達の左隣で、老婆に寄り添う紫乃の姿。


皆が皆、いきさつの見えぬ睨み合いに戸惑っていた。



「それにーーー」


アヤはその心地の良い声を潜め、男に視線を移す。



「あの男……

先程とは、
まったく違う。
闇が見えないーーー」




確かに、

その片眼に鋭さは残すものの、云われてみればその気配は微塵もなく消え失せていた。




アヤはぷっくりと丸みを帯びた下唇を優しく緩め男を見やると、

「其方も、
その気は無いのだろう。」


綺麗な二重の瞳を細め、アヤの印象的な口元から言葉達が零れ落ちた。




アヤの言葉に、二人を見据えていた片眼の男はフッと息を漏らし小さく笑う。


潰れた片側の眼が、グラリと縁を歪に象った。


「そうだな……
貴様達を、どうこうしようという気はない。」




男はゆっくりと二人から視線を外すと、膳に添えられた猪口で一気に酒を煽り、吐息をついた。




意図の掴めない男の言動に少し戸惑いながらも、消え失せた後に浮き立つ眼の光の奥ーーー

疑心暗鬼にその場に佇み、レンはその奥を伺うのだった。