静まり返る長い廊下。
息を止めた水面の様に、ピンとその沈黙は保られていた。
レンが一足一歩と歩みを踏む毎に、ギシリと小さく廊下が軋む。
その音は奥へと続く長い廊下に響き返って、レンの耳にこだました。
鼻先を擽る香の匂いは先程よりもきつく感じられるようになったが、厭な匂いではない。
胸一杯にその香。
以前何処かで香ぐった感覚を思い出しながら、ゆっくり鼻から吐き出す。
ーーー何処でだったか
ふと、そんな事を考えながら足下に映し出された自分の姿にレンは目をやった。
俯くと、紐で結わえてあった横髪がパラリと頬に落ちる。
薄っらとその輪郭を縁取り映るその姿は、まだあどけなさが残っていた。
白い肌。
白磁器の様に滑らかで、新雪に浮かび上がる兎の様に柔らかい。
幼少の頃は陽に焼けて垢だらけだったその肌も、歳を重ねる毎に今では見る者誰もが振り返る容姿に、レンはなっていったのだった。
意識せずとも、その視線はレンを追う。
闇に似た、舐める様な感覚。
小さな溜め息をつく。
思い出される感覚を、廊下に映る自身の姿を踏むと同時に、奥へと消し去った。



