妖勾伝

紫乃の母親だろうか。

溜め息が出る程の美しいその女に、目を見張る。



妖艶さが溢れ出る、その容姿。

着崩した朱色の着物の襟刳りからは、はちきれそうに艶めく二つの膨らみが零れ落ちそうに覗いていた。



はっきりとした顔立。

目元に紫乃の面影をうつし、老婆に寄り添う。

元気そうな老婆の顔を見て、大袈裟に安堵の息を漏らした。



「紫乃が、
婆様が大怪我をしたって云うから…
肝が冷えたよ。」


大輪の華がほころぶように、女は笑う。


「珀(ハク)は、相変わらず大袈裟だな。

いやな、
沢の脇で、この方達が助けてくれてね。
今晩はもう遅いから、泊まっていけって云ってるんだが…」



珀と呼ばれたその女は改めてアヤとレンの存在に気付くと、着物と同じ朱色に引かれた口唇の両端をを器用に持ち上げ笑った。



「それは、それは…

お気になさらず、是非ともそうしていってくださいな。
遅れましたが、私は主人の珀と申します。」


丁寧に深々と頭を下げる珀に、二人は畏まった。


「今晩は、他にも旅の方がいらっしゃって…
女ばかりの淋しい住。
是非、今宵は足を休めていってください。」


老婆と同じその押しの強さで、一息に珀はアヤへ向かってそう云うと

あれよあれよと云う間にアヤの手を引き奥へと引っ張って行ってしまった。