どの位、歩いたのだろうか。
進むにつれ、その密度を増してゆく木立の影に目を凝らす。
多様になっていく木々の蒼は、黙々と天高く聳えアヤとレンを見下ろしていた。
何人たりとも受け入れず侵入者を拒むかの様に、ひっそりと佇むその場所ーーー
何かしらの見えない印を破り、一歩足を踏み入れたアヤは、その場で滞る面妖な気配を感じ足を止めた。
背には老婆。
少し後方で、
足早にレンが付いて来ている。
物云わぬ視線に気付きレンが顔を上げたが、絡む寸前にアヤはその視線をソッと外した。
ーーー気のせいか…
耳元にかかる老婆の息遣いを感じながら、その妙に軽く感じる躰を背負いなおす。
「この小径を抜けたら、すぐだよ。」
そう告げる老婆の言葉に頷き、前を見据えてアヤはまた歩みを進めた。
同じ頃ーー
レンもまた、
アヤが受け取った何かを、その身に感じていたのだった。
ほんの微かな、気配。
それは一瞬で、幻ばの如くレンの範疇から消え失せた。
茂る木々の隙間。
闇に埋もれた空を仰ぎ見ると、雲の切れ間に黄身がかった満ち月が少しだけ顔を覗かせている。
今夜は満ち月ーーー
ーーー厭な夜だ
ふと溜め息を漏らし、
レンは、雲に隠れてゆく月に背を向けた。



