妖勾伝

沢の山際から駆け降りてきたその影に、アヤとレンはその足を止めた。



着物の裾の乱れも気にせず、近づいてくる姿にただ事ではない事を感じさせる。

焦りに覚束ない足取りで漸く二人に駆け寄ると、少女はそのままの勢いでレンに抱きつきその胸に顔を埋めてしまった。





「どうしたのですか?」



余りの急な事で、免疫のないレンは言葉の出ない口をパクパクさせたまま、

少女を胸に収め、手持ち舞沙汰な手をパタパタさせている。



その様子に失笑しながら、アヤは落ち着いた態度で言葉を繋げた。



見ず知らずの男に、焦っていたとはいえ、其処まで縋ってしまった態度を恥じり、

少女は白い頬を朱に染めて、直ぐさまレンから離れた。




「っす、
すみません!」



見る見る間に顔が紅くなり俯いてしまった少女に、アヤは良いのですよ、と優しく声をかけた。





その声色に、安心して顔を上げる少女ーーー




少女と云っても、歳の頃は二人よりも二つ三つ若いばかりか。

身なりは町娘ほどには見えなかったが、野焼けはしておらず、その綺麗な白い肌が目を惹いた。