妖勾伝

それは、レンの心にいつまでも寄り添う、一筋の光。




「……姐サは、
『闇』じゃなかったよ。」





そう、ポツリと云うレン。


その視線の先はどこまでも遠く、この目の前一面広がる朱の景色は映っていないかの様。



何処となく、その姐サの面影を残すレンの横顔を見つめ、アヤは静かに頷いた。



「そうか…」








川面に朱を残し見上げる空は、濡れ羽を広げた鴉の色に移り変わろうとしていた。

その黒は端から次第に手を伸ばし、夜の闇を呼び寄せる。

ゆっくりとーーー



「先を急ごう。」


どちらからともなく、その闇に滲んでゆく空を見上げ、先に進む為に腰を上げた。








「誰か、
助けてください!」





山々に響く声ーー


二人がその悲痛な少女の叫び声を聞いたのは、それから間もなくの事だった。