妖勾伝

レンに注がれる姐サの愛情は、確かなものだった。



入れ替わりの早い、小屋の生活。

常に、十にも満たない子供達が小屋に何人かは居た。


日常的に行われるオジキやニイ達の暴力に、

惜しまれる事なく皆に気を配っていた姐サだったが、レンに対してはそれ以上のものがあったかの様に見える。


何事もできない赤子の頃から共に小屋の生活を送り、その成長を傍で見つめてきたせいからだろうか。




そのレンへの愛情は、母の如く、深いものだった。




「姐サは…

ーーー闇だったのか?」



そう問うアヤに、静かに首を横に振るレンは、掻き抱く様に自身の両肩に手を回した。




これまで、ずっとレンの心に引っかかっていた疑問。


あの時の姐サは、一体何だったのか?


幼心にはっきりと感じた、初めての闇の気配。

それは一瞬だったが、暗く歪な『闇』。




しかしーーー




幾度考えても結局最後にレンの心に残るのは、

姐サの、

あのレンに向けられた優しい微笑みだけだった。