妖勾伝

「姐サは、
綺麗な人だった…」


木々の隙間から漏れてくる夕陽の光は、更に色を増してその場を深紅に染め上げてゆく。


朱一面染まる沢には、縁で揺れ咲く彼岸花が川面へと微かに姿を映し、自身を見つめている様に見える。

時折、何処からか吹く風にゆったりとその身を預けていた。



アヤは、愛おしそうに姐サの話しを口にするレンの横顔を見ながら、その未だ見ぬ姿を想像する。




「オジキは、
何処かの異国の血が混じっている、と云っていた。
難しいことは分からなかったが、子供の目から見ても、姐サは本当に綺麗な人だったよ。」



その姿は、酷い小屋の生活でも、色褪せる事は無かった。




透ける様な白い肌。

漆黒色の黒髪からは、いつも胸を擽る様な香がしていたのをレンは思い出す。

いつどんな時でも、凛とした優しさがその躰から溢れ出していた。



すべてが尊く、

この、地を這うような生活をしている小屋には、不釣り合いな人ーーー


幼なながらに、レンはいつもそう思っていた。


傍に寄り添えることで自身の存在理由を感じ、幼心に受け入れられるという喜びを、あの過酷な生活でレンが見いだせたのは、

ひとえに、姐サのおかげだったのかもしれない。