妖勾伝

「皆が炎に焼かれた時、レンも傍に居たんだろう……
何故、小屋は燃えてしまったんだ?」



躊躇いがちに聞くアヤの瞳を縁取る長めの睫に、落ちかけた夕陽の朱が射し、端正な顔に濃い影をつくっていく。


「あの、豪炎……

ーーー火を付けたのは、姐サだったよ。
売りの決まったわちをオジキから守ろうとして、刺し殺した後に火を付けたんだ。」


レンの幼く、

そして、今も揺らぎ続ける記憶が蘇る。



「だが、
あの時の姐サは、いつもとは全く違うかった…」


姐サの、漆黒色の瞳を思い出す。


二つの開いたその穴は、ただ真っ黒で

何も映す事はなかった。



闇に囚われた瞳ーーー



「豪炎は、
その晩仕事に出なかった、オジキと姐サ、タイチ。
そして、一足先に仕事から帰って来たニイを包み込んで、すべてを焼き尽くしてしまった……
あっという間に。」


揺らぐ炎は、レンの瞳に焼き付き、決して離れる事はない。



愛しい人ーーー


姐サの亡骸をその手に抱くことも出来ず、レンは燃え尽きていく小屋を見続けていたのだろう。

助ける事もできず、ただ何もできずに裂ききられた、レンの幼心。


アヤは、その幼い心情を切に想った。