妖勾伝











「だいぶ、
腫れも引いたな。」



腫れの落ち着いた右肩を見やりポンと軽く叩くと、アヤはそう云った。


沢の豊かな冷水に肩の痛みもとれ、心なしか軽く感じる。

「悪かったな。
ありがとう…」

礼を告げるレンの右肩を見ながら、アヤはふとその痣が変化していることに気づいた。




「レン、
その肩の痣…
何か象られてきていないか?」



右肩の痣ーーー

赤黒くぼやけていた痣の輪郭は、以前よりもはっきりと縁取られてきている様に見える。


肩の痣の事など意識して見ていなかったレンは、

そう聞いてくるアヤに、「そうか?」と云って小首を傾げて見せた。



「わちがオジキに拾われた時から、この痣はあったみたいだけど…

以前、
生みの親を捜す手掛かりになるんじゃないかって、そんな事を姐サが云ってたよ。」



レンの右肩に刻みつけられた傷の上部に浮き立つ痣は、幾つもの小さな形が寄り集まっている。

ぼやけて見えていた痣は、いつしか知らぬ間に形を成していたのだった。



そう、

まるで、花弁をほころばす華が開く様にーー