「ーーー『何故』?
それは、
レン、貴様が一番よく知っているだろう。」


不意をつかれて受け身を取れなかったレンの掠れる問いに、男は嘲笑うかの様に云った。


男の長い指先が、動けないレンの細い躰を辿る。

肩の痛みを堪え、歪めるその整った顔を、男は嬉しそうに見つめた。



闇の色
片目の眼ーーー



その男の眼に、

一瞬、虫酸が走る。


ニタリと笑う口元から、言葉が零れた。



「ーーー貴様は、
死なせない。」










どういう意味だ……?



そうレンが男に問い掛けようとした瞬間、馴染んだアヤの腕に掻き寄せられるのを感じた。

目の前が、どんどんと白く霞んでいく。

アヤのとっさの判断で、煙玉が撒かれたのだ。



「この場は、一先ず逃げるぞ。」

耳元に、アヤのひそめた声。

その言葉に、何とか首を縦に振って頷いた。




アヤに支えられ、振り返った先には男の姿。

立ち上る白煙に片目を細めていたが、闇の色を宿すその眼は、

ジッと、

煙に撒かれて消えてゆく、レンの姿を囚えていたのだった。