妖勾伝

「何か用か?」


たじろぐこと無く、レンはそう問う。

「いいや…」

立ちはだかる男はアヤとレンを交互に見据え、ボソリとそう呟いた。




「先刻は、
連れが世話になったみたいで。」


片目の男を見つめ、アヤは今朝方のろくでもない二人の男達を思い出していた。


ーーーあの、くだらない男達の連れか





旅をしてきた二年程の月日で、こういう事は、稀にあった。

二人の周りで静かに巣くう闇に加え、アヤの妖艶な容姿に、声をかけてくる輩が多々いたのだ。



華に群がる蜜蜂の様にーーー



相手をうわべだけで見る、その輩達。

この旅でレンに守られながら、アヤはその所為をうんざりしながら見つめていた。



しかし、

此も後少し……



都に辿り着けば、こんな戯れ事も終焉を迎える。


そんな事を考えながら、アヤは小さく溜め息をついた。





「去ね…
わちらはぬしに、用など無い。」


男のまがまかしい気配に、レンが少しずつ苛立っていくのが伝わってくる。

野生の獣が背を逆立て、牽制を張るかの様。


まるでそれは、『人』ではない何かと対峙している時に見せるレンの態度だった。