妖勾伝













「おい、コネコ。
待て!」



コネコを呼び止める、アヤの声。

思案していたレンが顔を上げると、その視線の先にコネコが転がるように駆けて行くのが見えた。

白い影が、スッと生い茂った草群に消えてゆく。




「どうした?」

「さぁ…」


肩を竦めるアヤ。


「猫の気紛れ…
私には、分からないよ。
何か良い遊び相手でも、見つけたのだろう。」

コネコを抱いていたアヤの腕が、所在無げにパタリと落ちた。




猫の気紛れ…

確かに、掴み所がない。




「そうだ。
晩は何か美味いものでも、喰いに行こうか。」

思い立ったように、アヤが喋り出す。


「さっき、
茶店の姐さんに聞いたんだ。
町に美味い魚を食べさせてくれる処があってーーー」

「シッ!」



途中で話を遮るレン。

片手を上げアヤを後ろ手に控えさすと、彼方此方に目をやる。

その伺う様子から、近くに誰か居ることを感じさせた。




「付いてきてる事は分かっている。
隠れてないで出てこい。」


静まり返る緑の小径。

見るからにその緑は気配を消し、無理に静寂を保とうとしている様に見えた。