妖勾伝

「そうだ。
隣町まで行くんなら、明るいうちに山を降りるんだよ。
ここ最近、此処いらは物騒だからね。
死人が続いている。
気を付けておくれよ。」


女はその大きな躰をできるだけ小さく屈め、アヤにひそひそと耳打ちした。

目の保養が減ったら困る、とでも言いたげに。



「ありがとう。
気を付けます。
まぁ、連れもいることですし、何かあれば守ってくれるでしょう。」

店に射し込む午後の日差しを受けたアヤの黒髪が、きらきらと綺麗に輝いて見え、その眩しさにレンは目を細めた。


レンをよそに、二人で何やら盛り上がりながら笑いあっている。



ーーよく云うよ。


朝方の男達への態度を思い出し、溜め息をついた。

レンは聞こえなかった振りをして、女に礼を告げると先に店を出た。


話しを終えたアヤも続いて女に小さく会釈し、その陽のあたる暖かな茶店の暖簾をくぐり、後にした。




日差しが木々にそっと当たり優しい影を地面に落としながら、午後の日溜まりを心地良いものにしている。

ふと見上げた空には雲が無く、此から進むべき道程へと二人を導いているかの様だった。