妖勾伝

「闇を納める力をかって、阿釈宗は黒葛を傘下に入れたハズなのに、
五百年前、阿釈宗は自らの手で牛鬼を封印した。

その時、
出るべき黒葛が出なかったのは何故だ?


傘下に入れた黒葛が、阿釈宗のいる華やかな都ではなく、遠く離れた土地で過ごしていた事も腑に落ちない……」










初めて、

レンがアヤと出会った時ーーー



その処刑場は、都から遠くかけ離れた名もない山あいの、寂れた町にあった。


処刑場に群がる野次馬。

人目を避けるように、少し離れた場所から大馬に跨りその様子を連れの者と眺めていたアヤ。



幼き瞳。

今と変わらず宿り続ける蒼き炎が、はっきりとゆらぐ。


その尊い姿、
思い出す……









その十三年後。

念願の再会を遂げた二人の旅の始まりは、やはり小さな村だった。


一面の桜吹雪。

遅咲きの桜の大木が風に煽られ、躰を揺する。






「都は、
煩わしくて苦手だ…」



ポツリと、
そんな言葉がアヤの口から零れる。

生成りの小さな華が舞散った、縮緬の着物を纏ったアヤは、やんわりとレンに微笑んだ。




「以前から世話になっていた人が、都へ是非来て欲しいと云ってきてね。

私はこの穏やかな村が、居心地が良くて好きだったんだが、そうもいかないらしい……


私がこの世に生を受けた、使命だそうだ。」




フウッと、溜め息を漏らすアヤ。

素性を隠す為に女の形をしていると訊いていたが、隣からその端正に整えられた横顔を見つめていると、男とは思えぬほど。




「まぁ、この姿も、
都へ行けばおしまいさ。」


その形の訳を深く尋ねる事は無かったが、アヤの表情からそれが大切な事を意味しているのだとレンは悟っていた。