妖勾伝

「そして、阿釈宗の僧侶が牛鬼を念珠岩に封じた後…

蔓延っていた闇の波が引いてゆく様に、荒れていた内乱も不思議と勢いを無くし、世は平穏を取り戻していったんだ。


ーーーその時の将軍の、
『自害』と共にね。」















暗く何かが滞る、
闇の中。


虚勢を張るように造り上げられた、要塞とも呼べる城の一室。



その腹に突きたった深紅に染まる短刀は、血にまみれた手にしかと握りしめられたまま。

羽織られた白装束が、その色を飲み尽くす様に愉しげに吸い込んでゆく。









その、屍ーーー


傍には、
何者かに無惨に掻き斬られた将軍の首が、転がっていたという……







そう、


人では無い、『何』かにーーー














語り継がれる、
悪しき伝え。


代々五百年以上にも渡り、自身の欲望のままに政治を行い続けた将軍家。

狂気を色濃く滲ませ、世を惑わせ続けた。


遠い異国の地にまでも、その手をのばしながら。







ーーー闇と、
将軍家の暗い影…


見えない糸をゆっくりと手繰りながら、胸につかえる何かを留め、レンはアヤに訊ねた。






「阿釈宗は将軍家のお抱えだと、以前訊いたことがあったが…」




見えない糸の間に絡まる、黒葛の血筋。

レンには、まだその胸のつかえが何を意味しているのかが、自身でもよく理解できなかった。








「……あぁ。

二つの関係は何を持っても、切る事はできないだろうな。」






アヤはそう言葉を濁すと、月明かりに薄く照らし出された夜気を払うように、熱を込めた息を小さく吐きだしたのだった。