妖勾伝

闇に伸びる、長い手足。

宙を掴み取る様に、指先にゆっくりと力が込められてゆく。



その乾いた躰を潤す様に、夜露に濡れた空気を、砕かれた肺に向かって大きく一つ飲み込んだ。



僅かにしなる躰。

象られた肢躰は、
どこまでも深い闇を纏う。




泡立つ気配はとどまる事を知らずになおも増し、漲る力が手に取る程にわかった。








その、
闇を纏う主ーーー







「神月……」











伏せられていた睫が、呼ばれたかの様にゆっくりと動く。

満ち月の光をたっぷりと浴びた片眼が、先にいるレンを捕らえ微かに歪んだ。



漆黒の、深い色から変わり映える、白銀の眼。

満ち月の目映さを吸い込んだ白銀の色が、神月の眼を縁取る。


頭上に輝く満ち月を仰ぎ見ると、その長く伸びた手を翳したのだった。





満ち月の一晩を、

愉しむ様に……












「クソゥ…

ま、
まさか、お前の正体がそうだったとは……


こうなったら、
完全に変化する前に、息の根を止めてやるわ!」





神月の正体を恐れる化け猫の声は、虚勢を張っていても隠しきれず、

ただ、
薄闇を震わすばかり。



闇雲に振るわれた化け猫の鋭い鈎爪が、宙を裂き急ぐ。

愉しげに満ち月を仰ぐ、神月の脳天めがけて、力強く叩きつけられた。