妖勾伝

ユラユラと
立ち上る漆黒の影。

視界を覆う様に遮っていた砂埃を掻き分け、息をつめてその存在が何なかのかと見定めようとするレンの、真摯な瞳に映ってゆく。











闇の色を深く吸い込んだ、暗い夜空ーーー

薄く張っていた雲を割り、そこに輝き浮かぶ満ちた月が、愉しげにジリジリと姿を現し始める。




眩く光りだす月明かりに照らされて、化け猫とは違うもう一つのその姿がはっきりと浮かんできた。





化け猫とは比べものにならない位の、


大きな、

闇……















「誰が、
煩わしいだって……?」










吐き出されるその声は、どこまでも冷たく辺りに響く。


先程触れた感情など、微塵の欠片も無い。

深く蔓延る、強靭な闇。



その気配に、其処に居た誰もが目を見張ったのだった。







手繰られていくように、地に巻き散らされていた肉塊が、その闇に吸い込まれてゆく。

目の前で起こる面妖な光景に、レンとアヤは口を封じられた様に言葉を詰まらせた。


発光する闇。

それはまるで、空間に現れた不可思議な歪み。

どろどろと蠢き、崩した存在を象ってゆく。







「お……

お前はーーー」





化け猫が一瞬見せた、恐怖の色。

違い過ぎる力の存在に、絞り出した声が震えている。



怯む、巨駆。

膨れ上がった愚身を、その場から仰け反らせる様に捩らせた。