妖勾伝





目眩ーーー


鼻の奥が、ジンとし痺れる。




耳を塞ぎたくなる地鳴りにグッと堪え、レンは下唇を噛んだ。





半身を朱で染めあげられた神月ごと、地を踏みつけた化け猫。

その地面からは、濛々と砂埃が舞い上がる。


視界は何も見えなく、頭上でほくそ笑む紅い二つの眼玉だけが気持ちよさげに歪んで見えた。




目の前には朱の跡が点々と連なり、化け猫の足元へと伸びてゆく。

簡単に踏みにじられた、
生命ーーー

はっきりと残る鮮やかさだけが、その神月の生きた証となっていた。





震える掌に感じる、仄かな柔らかさ。

口惜しそうに視線を投げるレンの掌に、添えられたアヤの温もり。




「神月……」



澱む醜景を見つめ、
アヤも苦々しくそう呟いた。















「さて…

煩わしいのもいなくなったことだし、
そろそろケリをつけさせてもらおうか……」






嗄れた声が、
澱んだ空気を大きく震わす。

此方を返り見る冷えた視線に、悪寒がゾッと背筋を撫でた。



「レン、
覚悟はいいか…?」









その問いにアヤを後ろ手に庇いながら身構え、レンは馳せる躰を押さえ息を一飲みする。
















ーーー今のわちに、
勝算はあるのか…





化け猫を、討つ手だては惜しくも今のレンには無い。





ーーーだが、
アヤは、
何が何でも守る

相討ちにさえ持ち込めれば…









しかし、その手段が思いつかぬまま、レンは猛々しく目の前で立ちはだかる化け猫を睨み上げる事しかできなかった。











ズズズーーーン



再び揺れる、
荒れ果てた地面。

爪痕を幾つも残し、二人を揺らす。



体制を崩し、しがみつく様に地に身を伏せたレンは、只ならぬ気配を覚え、ハッとそちらに顔を上げた。