妖勾伝

「ば、
馬鹿ーーー

そんなんじゃ…」



「なんなら、
お姫様抱っこでもいいぞ。」




反応を楽しむ様な、神月の声色。

明らかに、レンをからかっている。




「うるさい!
男の喋りは嫌われるぞっ!」



ムキになって引かれた手を振り払うレンを、神月は笑った。





「それだけの元気があるなら大丈夫だ…」











目指す大岩は、
もう目の前。

遠くに感じた大岩の影が、ヌラリと闇夜に浮かぶ。




そう、
思った瞬間ーー


その手を伸ばせば届きそうな僅かな距離で、物凄い地鳴りと共に化け猫の鈎爪が地を割き抜けきったのだった。










「ーーっ!」






揺れる地面にもたつく足を取られ、その場でレンは膝から崩れ落ちた。


間髪入れず、抜いた勢いのまま振りかぶられた化け猫の四肢が、その頭上の空気を裂いてゆく。


その軌跡は、目の前で走る神月の脳天をしっかりと捕らえていた。







「神月ーーー

後ろっ!」















レンが叫ぶと同時に、神月も背後に視線を投げていた。




歪む、気の流れ。


一本の鋭い線を描き、近付いてくる。









片方の眼が、
歪んだ時を


止めたーーー













「神月っーー!」





アヤを担ぐその腕に力を込めた神月は、そのまま懐に飛び込んできたレンに押し倒されたのだった。









もつれる様にして、
地に倒れ込む。





「これで最後だ。

息の根を、
止めてくれるわ!」








嘲笑う化け猫の嗄れた声が、



響いた。