妖勾伝

漸く一つ頷いたレンをジッと見つめ、神月は口を噤んだ。






ーーーレンも、
限界だな


そろそろ、
カタをつけないと…








何も浮かんでいない夜空を見上げ、息をふと吐く神月。







「とにかく、走れ!」



そう叫んだ神月は、アヤを肩に担いぎレンの細い手をぐいと引いたのだった。















手を引く、
神月の広い背中。


その背中を眺め、レンは霞む頭で思案していた。






ーーー物怪の神月が、
わちを助ける理由


仮にもわちを守るという事は、黒葛の血を引き継ぐアヤを助けるという事にもなるのでは…




闇に蠢く者ーー


五百年前、
神月はその身を堅く封印された、危険な物怪のハズ。


何よりも、黒葛の存在が疎ましいと考えれるのに。










しかし、
今のレンの瞳には、そんな神月が纏う漆黒の衣は映ってはいなかった。










『神月は、
悪い奴じゃない…』





そう云っていた、アヤの言葉を思い出す。











ーーー確かに、そうかもしれない…




何だかんだと云って、レンの尻を叩き世話を焼く神月に深い裏は見えなく、

ただ、この世に再び解放された喜びが、その躰から溢れている様にしか見えなかった。




この世に生を成せるなら、レンを守ると云う言葉もあながち嘘では無かろう。

それが最終的に、闇を納める黒葛を守る事に繋がろうともーーー













「何だ、レン?

貴様もおぶって欲しいのか……」



息一つ乱さず走る神月。

振り返りはしなかったが、背中を見つめ思案していたレンに気付き声をかけてきた。