妖勾伝

痛む躰。

鋼の様に、打ち続ける心臓。


もつれかかる足に鞭を払い、レンは先をゆく神月の後を追って駆け出した。





横目で化け猫をとらえ、もがく姿にもう一寸だけど願いながら、アヤの元へとレンは足を早めたのだった。







荒れた地に、
静かに横たわるアヤ。


先程レンと紫乃を庇って受けた傷跡が、裂け斬られた着物の間から覗き見える。

痛々しげに腫れ上がり、闇にでもはっきりと朱が滲んでいた。









倒れそうになりながらも、やっとの思いでアヤに駆けよると、そっとその躰を起してレンは声をかける。







「アヤ……」






薄闇にぼかされ、血の気が引いたアヤの表情は、まるで生を無くしているかの様。


儚く、
頼りなげにーーー





その腕に抱いたアヤの顔を見つめ、レンは息をのんだ。


躰中にに響く自身の心臓の音が、煩わしい程に鳴っている。


ひんやりと冷たくなったアヤの掌をひしと握り、レンはもう一度アヤの名を呼んでみた。




「ーーアヤ」
















「レ…ン……」













握り返される、
その僅かな温もり。

全身に、安堵という名の安らぎが満ち渡ってゆく。






アヤの無事に大きく息をついて、レンは強張った頬を緩ませた。



「アヤ、
すまなかった……」

















やんわりと、
レンに微笑むアヤ。


何も告げる言葉は無かったが、気に病むこともないと、その瞳はレンに語りかける。








薄闇に溶けかけたアヤの躰を留める様に、

レンは力強く、
その躰を抱きしめたのだった。