妖勾伝

レンを見透かす、
神月の眼。

闇の力ーーー




その眼は、

俺の事を呼んだであろう、とでも云いたげに…






ドクンと
心臓が一つ、大きく打つ。












一瞬深く思案したレンは、意識していないうちに息が触れ合う様な距離で神月を見下ろしていたのだった。





自身の息で微かに揺れる、神月の睫。

縁取られた片眼は、闇を吸い込み漆黒に色をユラユラと変えてゆく。



鬱陶しそうに、神月はゆっくりと一つしばたいた。









「……重い。」



「わわっ、
っわ、

すまんっ!」





何も云わず、ただジッと見つめてくるレンを面白がる様に、神月は茶化してみせた。

悪戯の笑みを、したためながら。






白い頬を朱に染め、恥ずかしさで痛む躰の事も忘れたレンは、神月に預けていたその身をすかさず反らせた。



その瞬間ーーー

二人めがけて叩きつけようと、化け猫の四肢が飛んでくる。


二人の頭上で裂かれた空間が、大きく歪んだ。




「レン、危ないっ!」










グイと神月に手繰られる、華奢な躰。


瞬きする間も与えず、レンの大きな瞳が神月の懐に引き寄せられた。