「…は、
離せ!
わちは、
ぬしに助けを頼んだ覚えは無いっ!」
レンを覗き込む、
白銀に映ろう片眼。
その距離に躰を堅くしたレンは、神月の右頬に思いっきり平手打ちをくらわせたのだった。
パチン!
と、こ気味良い音が薄闇に響く。
それと共に、体制を崩した神月はレンを抱えたまま地面に倒れ込んだ。
「ーーーっ!」
落ちた衝撃は、化け猫に負わされた傷口を広げるかの様にレンを蝕む。
地に伏し目眩を押さえる神月にもたれ掛かったままの状態で、
レンは整えられた綺麗なその顔を、苦痛で歪めた。
「貴様ぁ…
俺が危ないところを助けてやったのに、
その態度は何なんだーーー?」
打ちつけた頭を振りながらふてぶてしく云い放つ神月は、膨れっ面をワザと作り、自身に跨るレンを下から見上げた。
印象的な神月の大きな口元が、不満そうにへの字に曲がる。
その神月の表情を見て、レンは開きかけた口をギュッとつぐんだ。
ーーーた、
確かに…
確かに、
一瞬ではあったが、神月がレンの脳裏に浮かんだのは事実だ。
しかし、それは神月に助けを求めたのでは無い。
ーーーそう、
化け猫に向かうために、神月から受けた、闇の力を望んだだけで…



