妖勾伝

化け猫の、紅く染まった二つの眼。

すべての人間に向けた揺らぐ怨を、熱く熱く宿してゆく。

その妖気は凄まじく、踏み付ける大地を焦がしながら、揚々と湧き上がっていくのだった。




朽ちては留める、面妖な巨駆。


それを一心に使い、化け猫は、レンの細首を掻き斬ろうと一気に腕を振り上げた。



















ーーーアヤ











すまん……











脳裏に浮かぶ、
アヤの切なる眼差し。




躰を包み込む熱気に思わず瞳を歪め、レンは息をのむ。








鋭い鈎爪に斬り裂かれてゆく、空間の歪み。


無音の世界ーーー














「レン、






勝負は、
諦めたら負けだぞ…」





耳に響く、
風が唸る様な低い声。


その姿が、薄っすらと滲むレンの瞳に焼き付いた。











「ーー神月!」







レンを軽々と抱く、神月の腕。


ヒラリと飛び跳ねる様に、迫り来る化け猫の鈎爪から神月は難なく逃れてゆく。



その懐で息を付く事も忘れ呆然とするレンを横目で見やり、神月は片眼を愉しげに歪ませた。





「さっきも、
云っただろう。

貴様は、死なせないと……」









ほくそ笑むーー


深い漆黒の色を宿した神月の片眼が、僅かに白銀へと変化して見えた。