妖勾伝

「そんな躰で、一体どうしようというのだ。
はなから勝負は目に見えておるだろう。」


笑むその顔は、悦びで満ち溢れて見える。




力の入らない腕で太刀を構えるレンを見やると、大声を上げて笑いだしたのだった。





「フハハハハーー

人間如きがこの儂に、
何が出来ると思っておるのだ。

くだらん。」









いとも簡単に凪払われたレンの躰は、舞い飛ぶ蝶の様に高く高く宙に放り投げられた。



そして、
そのまま、地に倒れ込む。














ーーーやはり、



ダメなのか…










霞む、化け猫の巨駆。


レンは頭上で淡く滲んでぼやける夜空を見上げ、その姿を求めた。


満ち足りた、
月の姿を……






目の前に立ちはだかる物怪に、為す術もなく拉がれるレンを嘲笑うかの様。

薄く光る星達だけが、闇で塗りつぶされたその暗い空に瞬いているだけ。




満ち月の一晩、
闇の力を使えない生身のレンが、化け猫に勝てる手だてはもう無いのだろうか。


神月から
寄りどこられた、
闇の力ーーー
















「先に、
あの世に行って、
黒葛が来るのでも待っているがいいわ!」