「お願い、
レン様……」
そう云い、
静かに瞳を閉じる紫乃。
ひしと掴まれた裾を握りしめ、小さな息をたてる。
レンはその柔らかな頬に、ゆっくりと手を添えて瞳を閉じた。
すべては、
闇ーーー
ピンと張り詰めた水面を、ユルリと揺るがす一粒の泡。
呼び水を放ち、
それはどんどんと大きく広がってゆく。
蠢ク ソレハ
闇ナノカ
人ナノカーーー
心に棲む闇が、
人を惑わせる。
心が、
静寂をうつ。
レンは伏せていた瞼を開け、対峙する化け猫を睨み見た。
傍にはアヤ。
懐に抱いた紫乃をゆっくりと地に横たわらせると、化け猫に向かって云い放った。
「ぬしの魂は、
すでに闇に堕ちている。
その腐れた愚身は、此処には居るべきではない。
その魂、
わちが闇へと帰してやる!」
満身創痍な躰を引きずり、ユラユラと立ち上がるレン。
ーーー守るモノは、
ただ一つ…
霞みゆく視界を堪え、
にがる奥歯をグッと噛んだ。



