妖勾伝

傍の茂みに激しく叩きつけられる、その躰。

木摺れが辺りに響き渡り、酷い音を立てる。


レンはとっさに紫乃を抱きかかえ、躊躇いの欠片もない四肢から守る様に、身を挺した。











「ーーゴッ、
ゴホッ…」



腹の底を掴み上げられた感覚に、堪えきれずむせかえる。

レンの細い喉を押し上げ、腹に溜まった血塊が吐いて出た。








灼けつく様な、背中の痛み。


その痛みに顔を歪めるレンの懐で、紫乃が小さく身を捩った。








細く成熟しきっていない、紫乃の躰。

時を刻む速さに心と躰がついていけてないのか、妖艶に漂う危うさを残している。



どこか、躰を強く打ちつけたんだろう。

ポロポロと零れ落ちる清らかな泪が、頬を伝っていた。





「お願い…
レン様……

婆様を、
殺さないで。」



悲痛な声。

痛みに絞り出される紫乃の声は、儚く闇に消え入りそうだ。

すがりついたレンの襟刳りをギュッと握りしめ、紫乃は言葉を繋げる。






「婆様は、
優しい人なの…

父様にも、母様にもーーー



あんな事がなければ……」







嗚咽をしゃくりあげ、紫乃は想いを声に出す。


その痛々しさに、レンは思わず言葉をつまらせた。